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脊椎動物 Vertebraの歯の起源

 脊椎動物の魚類に属する、無顎類Agnathaや板皮類Placodermi(甲冑魚など)、軟骨魚類Chondoroichthyesnado(サメやヱイ)は椎骨を持たない。無顎類は脊索であるし、軟骨魚類は軟骨性の椎体である。ただし、軟骨魚類が歯を持つのに対し、現生の無顎類は石灰化した歯を持たない。

ヤツメウナギ  

ヤツメウナギ目 Peteromyzoniformes

  ヤツメウナギは脊椎動物で最も原始的な種類のひとつで無顎類(Agnatha)に属し,円口類Cyclostomata)に分類される。脊索は石灰化しない。無顎類に属するヤツメウナギは顎関節がなく,円形の口がいつも開いている。

ヤツメウナギの口を正面から見た像

   口の周囲と舌の上には角質化した歯(角質歯 honey teeth)があり,これで魚に吸着し,体表に孔を開け,血液を吸い栄養を採取する


 
 角質歯
は,口腔の表皮が角質化(角化)したもので毛や爪と同じ性質のものである。口の周囲の表皮は常に分化しているが,一定の間隔をおいて分化した一定の集団の表皮細胞が過角質化して角質歯となり,ついには脱落し,後続の次の角質歯と交代する。
 これは毛や爪が一定の細胞集団が連続的に角化するのに対して,細胞の集合が周期性を持って角質化 (k
atinization)するもの認められ,歯のシュレーゲル条などが周期的に構造を形成する細胞集団の先駆的分化と考えられる。
*毛は体の部位によって周期性が異なる。爪は連続的に角質化する過程に周期性が表れる。

カワヤツメの口腔上皮の歯

   カワヤツメ
口腔上皮の先行歯




表皮の上皮柱に角質化した歯が間隔を置いて形成される。上皮も角質化をするが、歯は過角化をする。


上皮柱にある後続歯


角質化と歯の関係
 
角質歯をはじめとする角質化はケラチンが表皮細胞内に蓄積するものであるのに対して、歯のエナメル質は口腔粘膜上皮より分化したエナメル芽細胞からエナメルタンパクを分泌して形成される。このような有機基質形成様式の違いがある。ただしエナメルタンパクとケラチンは、アミノ酸組成が非常に類似することに注目したい。また毛や爪の角質器も石灰化することがあり、角質器とエナメル質の有機基質は共通の先祖を持つものと推定している

   右が角質歯の角質化
左が口腔粘膜の角質化 トルイジンブルー染色
     角質歯のケラチンTEM像

(上記三切片は東京医科歯科大学山下靖雄教授提供,川崎1984






(引用文献)

川崎公子:カワヤツメ(Entosphenus japonicus)の角質歯の形成に関する観察,口腔病学会雑誌,51287-3321984

甲冑魚の甲皮

   (甲皮類 Romer 1966)


歯の起源は,オルドビス紀(
Ordovician 4.5億年前)から発見される化石の無顎類,いわゆる甲冑魚と呼ばれる頭甲目Cephalaspides,異甲目, さらに顎を持つ板皮類Placodermiなどの甲皮と考えられている。化石より推定すると、体表の甲皮が石灰化した骨性組織で表面に小歯がある。すなわち表皮から小歯が生えだしていた、と推定される。小歯はリン酸カルシウムよりなり,表面にエナメル質(エナメロイド)とその下層に象牙質の構造があり,先駆的な歯と考えられている。小歯は外骨格に骨性癒合するが、骨との間にaspidinが有るといわれる。これは魚類の歯の歯足骨(pedicle)と相同であり、セメント質の起源と考えている。

 

   (小歯の断面 Ørvig 1967


   

(小歯の歯の交換と甲皮の断面Romer 1966

 

甲冑魚のエナメル質は魚類の歯の発生から推定すると,膠原線維を基質とするエナメロイドと考えられ、サメの楯鱗の様なものと考えられる。サメでは楯鱗と口にある歯の構造がほぼ同様と考えられる。これは魚類の歯とも同様であるので魚類の項を参照されたい。付け加えるなら、このような小歯が交換するときに吸収を受ける。このとき出現するのは破歯細胞であり、脊椎動物の破骨細胞の由来はここにあると推定している。

(引用文献)

Ørvig TPhylogeny of Tooth TissuesEvolution of Some Calcified Tissues in Early Vertebratesin Structural and Chemical Organization of TeethAEWMiles ed),vol145-110Academic PressNew York1967
Romer ASVertebrate Paleontology3rd edThe University of Chicago PressChicago1966